昔はなぜ肉屋は儲かったのか 

昔はなぜ肉屋は儲かったのか
ビジネス

利益構造を数字だけで考えた日のこと

30年ほど前、こんな言葉をよく耳にしました。

「肉屋さんって儲かるんですよね」
「どのくらい稼げるんですか」

まだ今ほど情報が表に出る時代ではなく、
商売の実情は外からは見えにくいものでした。

それでも、街の中では
「肉屋は儲かる商売らしい」というイメージが
どこかで共有されていたように思います。

自営で精肉店を営む方の中には、
確かに大きく稼がれた方もいました。

胸には金のネックレス。
腕には高級時計。

少し怖そうに見える社長も、
あの頃は珍しくなかった気がします。

派手な人もいれば、
静かに堅実に商売を続けている人もいましたが、
それでも精肉店という仕事は、
他の小売業に比べて「羽振りがいい」と言われることが
多かったように思います。

最近は、
「昔はよかった」という声もよく聞きます。

昔のほうが売れた。
昔のほうが利益が残った。
そんな話を耳にすることも少なくありません。

では、なぜ昔はそんなに儲かったのでしょうか。

理由はいくつもあります。

市場環境。
競争状況。
流通の仕組み。

今と比べると、
小売の構造そのものが違っていました。

大型スーパーの数も限られていましたし、
コンビニもまだ今ほど普及していませんでした。

街にはそれぞれ専門店があり、
肉は肉屋、魚は魚屋、
そんな買い方がまだ当たり前の時代でした。

なかには、今はもうできなくなったこともあります。

たとえば、
個体識別番号制度が導入される前と後では、
業界の透明性は大きく変わりました。

BSE問題をきっかけに、
牛肉の流通は大きく変化しました。

どこで生まれ、どこで育ち、
どこで処理された牛なのか。

それが番号で追えるようになり、
流通の透明性は一気に高まりました。

それ以前の時代とは、
商売の環境そのものが違っていると言ってもよいでしょう。

ただ、制度や時代背景の話だけでは、
本質には届かないように思います。

環境が変わったのは確かです。
しかし、それだけで商売の結果が決まるわけでもありません。

どうすれば利益が残るのか。

経営をしていると、
利益構造を何度も考え直すことになります。

売上が落ちたとき。
原価が上がったとき。
人手が足りなくなったとき。

そのたびに、
「どこに問題があるのか」を考えることになります。

私は、案外とシンプルに考えたほうが
よいのではないかと思っています。

商売の基本は、
安く仕入れて高く売ること。

言葉にすると、とても単純です。

もちろん、
現実の商売はそんなに単純ではありません。

それでも、
どんなに複雑な経営の話をしていても、
最後はこの基本に戻ってくることが多いように感じます。

まずはそこに立ち返る必要があります。

もちろん、
そんなに単純ではない、という声も
聞こえてきそうです。

実際、精肉店の利益構造で
最初に見直されるのは、
ロスや廃棄の部分です。

売れ残り。
値引き。
期限切れ。

ショーケースの中で
売れずに残ってしまった商品。

閉店前に値引きをした商品。

期限が来て廃棄になってしまった商品。

目に見える“もったいない”が、
利益を削っているように感じるからです。

数字を見れば、
そこには確かに損失があります。

だからまずは、
そのロスを減らそうと考える。

これは自然な発想だと思います。

しかし、
ロスを減らすことだけで十分かというと、
そうでもありません。

精肉の場合、一頭すべてが同じように売れるわけではありません。

人気部位もあれば、
動きの鈍い部位もある。

ロースやカルビはよく売れる。
しかし、すべての部位が
同じスピードで動くわけではありません。

枝肉を仕入れるということは、
そうした部位のバランスを
丸ごと抱えるということでもあります。

歩留まりや部位バランスまで含めて考えないと、
利益構造の全体像は見えてきません。

さらに、
加工の手間や作業時間もあります。

肉を整形し、
スライスし、
パックして売場に並べる。

それぞれの作業には、
時間と人手が必要です。

ロスが減っても、
作業負荷が増えれば、
現場の余白はなくなっていきます。

私は以前、
そのことを強く考えさせられる
出来事を経験しました。

私が強く印象に残っている出来事があります。

ある店舗で、
粗利率の改善に取り組んだときのことです。

当時は、
原価の上昇が続いており、
利益をどう確保するかが
大きな課題になっていました。

そこで、
商品の値入れや構成を見直し、
粗利率の改善を図ることになりました。

数字上は成果が出ました。

原価率は下がり、
粗利率も改善しました。

会議資料としては、
十分に評価できる内容だったと思います。

数字だけを見れば、
取り組みは成功していました。

しかし、
売場の空気が変わっていきました。

値入れを優先した商品構成に変えたことで、
売りづらい商品が増えました。

価格は少し高くなり、
動きにくい商品も増えました。

「今日はこれを売らなければならない」

その意識が、
現場の負担になっていきました。

本来、売場というのは
お客様の様子を見ながら、
自然に商品を提案していく場所です。

しかし、
「売らなければならない商品」が増えると、
売場のリズムが変わってしまいます。

さらに、
数値目標が強調されるようになると、
スタッフの表情が変わりました。

売場は整っている。
数字も整っている。

それでも、
どこか余裕がなくなっていったのです。

以前よりも
売場はきれいに整っている。

商品もきちんと並んでいる。

しかし、
どこか張り詰めた空気が
漂うようになっていました。

粗利率は改善しました。

しかし、
現場は疲弊しました。

あのとき、
私は数字だけを見ていたわけではありません。

売場にも足を運び、
スタッフとも話をしていました。

それでも、
どこかで見落としていたものが
あったのだと思います。

利益は、
計算式だけでできているわけではない。

売場の空気。
スタッフの余白。
お客様の表情。

そうしたものは、
会議資料の数字には
なかなか表れてきません。

しかし、
それらが少しずつ崩れていくとき、
数字はあとから追いかけてくるのかもしれません。

売場の空気が変わり、
スタッフの余裕がなくなり、
お客様の反応が変わる。

そうした変化が積み重なったあとで、
売上や利益の数字が
少しずつ変わっていく。

そんなことも、
決して珍しくないように思います。

本当に守るべき利益とは何なのか。

今でも、ときどき
考えることがあります。

もし今、
数字は整っているのに、
どこか売場に違和感を感じているなら。

それは、
利益構造をもう一段深く見直す
サインなのかもしれません。

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